【論文覚書】5週間の暑熱トレーニングがエリートサイクリストのヘモグロビン質量を増大させた実験結果

論文覚書

暑い中での練習は通常の練習に比べてパフォーマンスが下がるし、嫌いな選手は多い。

僕は夏は好きだけれども、うだるような暑さの中で飲み物が尽き、干からびながら自転車にのってコンビニを探すときのつらさというのはほかの何にも代えがたい。

そういった熱中症対策や、水分補給はきちんと行ってほしいのだが、暑い中でのトレーニングがパフォーマンスに良い影響を与えるのではないかという示唆を見つけたので覚書。

その前に暑い中でのトレーニングの注意点や、少しでも暑さを避けて練習する方法が以前ロードバイクアカデミーで記事にしたので参考にしてほしい。

論文の要旨

対象: VO2max 76.2±7.6mL/min・kgの男性サイクリスト23人

介入: 11人に週に5回、1回1時間の38℃での自転車上での軽いエクササイズを課した(HEAT群)。一方残りの12人は同じエクササイズを15℃下で行った。

軽いエクササイズの内容

Conputrainerのローラーを使い、5分間のスピニングの後、50分間にわたって、血中乳酸濃度4mmol/Lとなる強度の45%の強度でペダルを回した。

ただし、主観的運動強度の20段階のスケールで11よりも25w以上高く、15よりは20w低くなるように留意した。

これらのエクササイズは午後に行われ、被験者たちは午前はそれぞれ通常の練習を行った。

結果: HEAT群でヘモグロビン質量が有意に増加した。乳酸閾値パワー、疲労時のグロスエコノミー、15分間の最高出力テストの結果はどれもHEAT群の方が高くなったが、有意差が出なかったほか、効果量がそれぞれ0.34, 0.52, 0.22と大きいとは言えなかった。

結論: 5週間の暑熱トレーニングはヘモグロビン質量を増大させる。しかしその他のパフォーマンスの指標への効果量は十分とは言えなかった。

論文を読んで

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大学の授業で統計学は学んだのだが、試験に通るための一時的で部分的な理解にとどまっていたことと、純粋に忘れていることもあって、論文の統計学的処理の項目が暗号だらけで焦る。

統計勉強しなおさないとなあ。

ともあれ、暑い中でのトレーニングはヘモグロビン質量を増大させるということで、ヘモグロビン量を増やさせる適応はなにも高地トレーニングのみで起こるわけではないという知見が得られた。

一方実際にこれによってパフォーマンスが向上したとは言えないのがネックで、まだ研究の余地は残されていると言えよう。

また、高地トレーニングと暑熱トレーニングを同時に行ったところ、暑熱トレーニング単体に比べて暑熱順化の効果が薄かったという報告もある(1)。

いまのところ、ヘモグロビン質量を増やすことを目的に暑熱トレーニングを行うというのはまだ浸透していないと思われるが、同様の効果を期待できる高地トレーニングと組み合わせる、たとえば、

Live High Train LowのTrain Lowに暑熱トレーニングを組み合わせる。つまり日本の夏でいえば長野県の高地に宿をとって松本などの高温の盆地でトレーニングするような手法。

のような手法は一見暑熱順化とヘモグロビン増大効果の一石二鳥を見込めるように思われるけれども、実際はそうではない可能性もあるということ。

この分野の論文面白いのでもう少し読み進めてみよう。

参考文献

  1. McCleave, Erin L., Katie M. Slattery, Rob Duffield, Philo U. Saunders, Avish P. Sharma, Stephen Crowcroft, and Aaron J. Coutts. “Impaired Heat Adaptation From Combined Heat Training and ‘Live High, Train Low’ Hypoxia.” International Journal of Sports Physiology and Performance 14, no. 5 (May 2019): 635–43. https://doi.org/10.1123/ijspp.2018-0399.

テーマの論文:

Rønnestad, Bent R., Håvard Hamarsland, Joar Hansen, Espen Holen, David Montero, Jon Elling Whist, and Carsten Lundby. “Five Weeks of Heat Training Increases Haemoglobin Mass in Elite Cyclists.” Experimental Physiology. Accessed August 24, 2020. https://doi.org/10.1113/EP088544.

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