皆さんこんにちは。
レッドブルの値下げのニュースを見てから世界がカラフルに見える大前です(レッドブル大好き)。
今日は
#ロードバイクアカデミーQ 略して【RAQ】
に寄せられた質問にお答えしていく最初の回になります。今回お答えする質問はこちら。
日本人選手と世界の選手との差は何か。それを埋めるには何が必要か。世界で活躍する選手がもっと増えて欲しいのです!#ロードバイクアカデミーQ
— 義男@子育てローディー4年目突入 (@yosioad324) January 11, 2021
ご質問ありがとうございます。
このテーマに関しては、僕も競技を始めてからずっと考え続けてきたし、これからも考えていくことです。逆に現状を踏まえると、正解が分かっているのならこうなってはいないというか、
日本の自転車界を支えてきた大人たちもまだ答えにたどりつけていないから、日本の自転車界は世界と水をあけられているのだろう、ということになります。
だから今日お話しすることは正解である保証はもちろんありません。あくまで僕が今日時点で持っている考えです。
そして、書いていてわかったんですけど、この話題、めちゃくちゃ長くなります。5000字じゃ終わりません。2万文字あっても足りないかもしれません。
なのでとりあえずこの回では、「日本の自転車界が今抱えている問題の提起」に絞ってお話ししたいと思います。
それでは始めていきましょう。
日本と世界との自転車競技力の差: 圧倒的な育成体制の差
1年半ほど前に栗村さんがサイクリストの輪生相談でこんな記事を書いてました。
そこで栗村さんは、「強い選手を生み出すために必要なリソース」として次の4点を挙げていました。
- フィジカルの才能(選手)
- メンタルの才能(選手)
- ノウハウ・指導力(指導者)
- 継続可能な環境(経営者)
そのうえで、今の日本の自転車界は1と2、つまり選手の才能だよりになっていて、3と4、つまり選手をサポートする環境が圧倒的に足りていないと言ってました。
まさしく僕も同意見です。
でも、ちょっとこのままではわかりづらいので、うまく説明するために、高校の部活に例えてみようと思います。
日本の自転車界を高校の部活に例えてみよう。
あなたの高校の水泳部はいわゆる「弱小校」です。
毎年県大会ではだれも決勝に上がれない。学校対抗の順位なんて気にしたこともない。
ところがある年、名門クラブチームの選手コースで水泳を習っているたかし君が入ってきました。
たかし君はクラブチームに所属したまま、部活には籍だけおいて、試合には学校の名前で出るけど、普段の練習はほぼ幽霊部員。クラブチームで日々追い込みます。
そんなたかし君は1年生のインターハイで決勝にあがり、2年のインターハイでは堂々の優勝、3年時には部活のパッとしないチームメイトとリレーを組んで決勝で3位に導き、学校対抗でも優勝して、弱小校だったはずのあなたの高校の名を全国にとどろかせました。
ところが、たかし君が卒業した後のあなたの高校は、途端に弱小校に逆戻り。だって強かったのはたかし君だったから。つまりあなたの学校がその3年間強いように思われていたのはたかし君がいたからで、たかし君がいなかったら、状況は何も変わっていなかったんですね。
部活のたとえ話でわかること
いまのたとえ話のような話、皆さんの経験の中にも一度くらいありませんか?
日本の自転車界は、まさにこれが国単位で起こっている状態です。
- 弱小水泳部=育成体制の整っていない日本の自転車界
- 選手コースに所属して、インターハイは高校の名前で出るたかし君=普段はヨーロッパで走ってアジア選手権の時だけ日本のジャージで出る新城幸也選手や別府史之選手、中根英登選手
- たかし君が卒業したら結局もとの弱小校=新城選手や別府選手、中根選手が引退したら結局もとの弱小国
そしてこのような、いわゆる「弱小校」が強豪校になるためにやらなければならないこと、それはもちろん「育成体制の整備」です。
よその強豪クラブチームで鍛えた強い選手を自分の学校に招き入れても、それは本質的にその学校が強くなったとは言えないから、自分たちの学校の中で強い選手を育成する必要があります。
じゃあ「育成体制ってなに?」となった時に、さっきの栗村さんのリソースの話に戻ってきます。
まず、「良い指導者」をつける必要があります。
それは、外部コーチかもしれないし、顧問の先生が自ら勉強するのかもしれません。なにも、指導というのは練習メニューを作ることだけではなくて、日ごろの食事、睡眠、筋トレの知識、メンタルの持ち方など…
アスリートに必要な能力というのは多岐にわたっていて、それらすべてに専門家をつけて指導しようと思うと、実はこれ結構なコストがかかります。
そういう意味では、ある程度は顧問の先生が勉強して、優秀な人材を雇えない分のノウハウをカバーする必要があるでしょうね。
そして同時に、顧問の先生は学校内でうまく活動をプレゼンして、部費を多くとってくる必要があります。そうしないとコーチは雇えないし、ビート板やフィンなど、活動に必要な器材を揃えられないから。
そうして育成体制が整って初めて、高校入学時には全然大した結果もなかった生徒が、高校3年時にインターハイで優勝したりして、大きな成長を遂げる可能性が生まれてきます。
ところが、これを日本の自転車界でそっくりそのままやるためには、クリアしなければならない課題が山積みなんですよ…。
問題点①:「良い指導者」を日本で量産することの本質的問題
世界の自転車界は、とっくに「パワーメーターありきのトレーニング」が中心になっています。
心拍数でも、スピードでもなく、「パワー」です。もう10年も前から業界は変わっています。
そしておそらくパワートレーニングが普及し、効率的でダイレクトに有酸素能力にアプローチできる練習が生み出された結果が、レムコ・イヴェネプールをはじめとした「若手の台頭」です。
10年前の自転車界で考えたら、今のような状況は考えられませんでした。
ところが、日本の自転車界に目を移した時、「パワーベースのコーチング」ができる日本人コーチが一体何人いるでしょうか。
おそらく僕が知る限りでは7,8人です。
パワートレーニングを教えられるコーチ=良い指導者、と一概にいえるわけではありませんが、世界がそうなっている以上、パワートレーニングを教えられることは、少なくとも「良い自転車競技コーチ」の必要条件です。
そして、将来が有望な「高校生、大学生」が、大きなコストを自分で払うことなく、良い指導者から「良いトレーニング」を受けられるようにしなくちゃいけないです。
これは、高校、大学の自転車部の顧問の先生やコーチは全員、パワートレーニングを教えられるようにならなければならないということです。
でも、パワートレーニングを教えられるようになるには、少なくとも自分も生徒もパワーメーターを持っていないといけないし、「自分がパワートレーニングを使って強くなった経験」をしないといけません。
ヨーロッパで今これだけパワートレーニングが進歩している理由は、
「10年ほど前にパワーメーターを使ってトレーニングして強くなったという経験をしたプロ選手が引退してパワートレーニングを学んで、現在コーチとして活躍している」
からです。
日本の高校、大学の顧問の先生や監督は大体中高年ですし、少なくとも自分が現役のころにパワーメーターを使ったことはないでしょう。身をもって体験していないことは人に伝えられません。
なので、理想はこの10年で現役を引退した日本人プロ選手がコーチになる勉強をして、コーチとして活動してくれることなのですが、どっこい、
「日本の国内コンチネンタルチームで、チーム単位でちゃんとコーチをつけてパワートレーニングを選手にやらせているチームは、僕が知る限りまだ一つもない」
という問題があります。
日本の多くのプロ選手はパワーメーターをつけてはいるものの、パワートレーニングが何か知りません。だからパワーメーターを使って飛躍的に強くなったという経験をしていません。
だから引退しても、わざわざパワートレーニングを学んで広めようという発想になりません。
(あくまで大勢の話なので、「いや俺はそんなことないよ!」というプロ選手、元プロの方はすみません。)
そうなるとまずやるべきは、
「日本の国内プロチーム内でパワートレーニングを広めて、パワートレーニングで飛躍的に強くなるという経験をプロ選手にさせる」
ところからになります。ヨーロッパの10年前の状態から始めなければいけないわけです。
とんでもなく長い道のりになりそうなのが分かっていただけると思います。
問題点②: 日本は自転車競技をやるにはリスクとコストが大きすぎる
さらに自転車の厄介なところは、
「他のスポーツに比べて圧倒的にお金がかかる」
というところと、
「けがをしたときにどこが責任をとるのか」
ということでしょう。
まず機材の要である自転車自体が2,30万円はするし、ヘルメットやウエア、その他機材で10万円、そこからパワーメーターを本格的に導入しようとしてさらに20万…
ざっと見積もって初期投資で50万、遠征費用などでさらに年間50-100万円はかかるでしょう。
それを個人で負担するとなると、お金持ちしかできないスポーツになってしまうし、部活やクラブチームが負担するとなると、そのお金を取ってくる優秀な営業力のある監督が必要になってくる。
そもそも学校からしたら、たびたび事故って大けがを負う生徒が出て、さらに年間◯00万円もの活動費を必要とする部活なんて厄介でしかありません。
責任をとって記者会見とかなったら嫌だ…。できればそんなリスクとコスト、背負いたくない。
これが当然の心理です。
ヨーロッパは自己責任&活動費が安い
ヨーロッパの場合は、そもそもレースを開催するための行政や警察の介入が少なく(その分レース中に車が入ってきて危険なこともありますが、そこは出場者の自己責任となっています)、その分低コストでレースを開催できるので、色んな地域で色んなレースをやります。
なので「レースに出るために車で500km移動」なんてあまりなくて、
「近所でやるレースにふらっと出てみよう」くらいの感覚でレースに出ます。
レース自体が低コストなので出場費も安く500円~高くて2000円といった感じです。
日本では大きな落車が発生すると、警察が来てレース外の事故と同じように現場検証…(すみません、詳しいステップは知りません)となりますが、ヨーロッパではレース中のけがは自己責任なので、大きな落車が起きても警察が深く介入することはありません。
落車してけがを負った選手の所属チームに責任が及んで活動停止にはならないし、そのレースの翌年の開催が危ぶまれることもありません(もちろん、コースに落車を誘発する致命的欠陥がある場合は改善されますが)。
なので、ヨーロッパでは基本的に機材を買ったら、あとは地元のレースに気楽に出るだけなので、ナショナルチームを目指すレベルでヨーロッパのレースを転戦しない限り、遠征費に毎年◯十万円もかかることはありません。責任問題も簡単、「自己責任」です。
他にもまだまだあるけど、今日はこのへんで…
他にも問題点はまだまだあるんだけど、いい加減長くなってしまうので今日はこの辺で…。
今回の記事でわからないことや疑問点があったら、また#ロードバイクアカデミーQ に投稿してくださいね。
それではまた!