プロになってから様々なレースを走らせてもらっているが、ここまで激しいインターバルのレースは初めてかもしれない。それくらい骨の髄まで出し切るレースになった。
【コース】宇都宮森林公園特設コース
【距離】6.7km x 11laps 73.7km
【メンバー】伊藤選手、住吉選手、岡本選手、自分、當原選手、貝原選手、中川選手
【結果】伊藤選手6位、自分12位、岡本選手15位など
昨日のクリテで落車した草場選手を欠いての7人でのスタートとなった。
事前の見立て
今回も写真は三井至カメラマンより。ありがとうございます。
キナンが絶対に強いだろうという見立て。要注意チームはブリヂストン、マトリックス、ブリッツェン、チーム右京。
- ブリッツェンは増田選手が体調不良との情報が入っており、増田選手がどの程度の調子かによってチームワークも変わってくるだろうという見立て。
- マトリックスも個の力は折り紙付きだが、群馬を見ていてチームワークが少しかみ合っていない感がある。
- ブリヂストンは昨日のクリテしか走っていないので、調子が未知数。
- チーム右京は武山選手、横塚選手が脚質に合っていそうなので要注意。
キナンのトマ選手が暴れまわることは間違いないが、それにフォローできる選手はチーム内でも伊藤選手くらいしかいない。
そのためキナンの日本人選手の動きに同調しつつ、ブリッツェンの連勝を止めるためにブリッツェンその他チームに不利な状況を作るという作戦でスタートした。
序盤の展開: 15人の逃げでブリッツェンを消耗させる
レーススタートするとやはり各チーム気合が入っていて、とんでもなく速いペースでレースが進む。
自分もインターバルや登りが得意な選手ではないので苦しむが、群馬に引き続き調子が良いので、なんとかレースに参加できる先頭20番手あたりをキープして3周を消化する。
そして4周目、アタックが決まるというより、アタックに反応できなかった選手のところで集団が割れるという形で15人の先行集団とメイン集団に割れる。ここにうちは伊藤い選手と自分が先頭にいる。
他チームも複数選手を乗せているのは見えるのだが、宇都宮ブリッツェンの赤いジャージが見えない。
とても良い状況だったが、前の足並みがそろわないことと、ブリッツェンが後ろの集団でアシストを消耗して捨て身で追いかけてきたことで、結局振り出しに戻る。
この状況を嫌った今村選手のアタックに反応して自分とキナン新城選手が抜け出す場面もあったが、決定的にはならない。
中盤の展開: 入れ替わりの15人逃げで有利な展開を作る
6周目に入ると、下り区間で集団が前に割れていく形で9人の逃げができた。
うちから伊藤選手
ブリヂストン: 今村選手
チーム右京: 内間選手、横塚選手
キナン: 山本兄弟
リオモ: 石原選手
ブリッツェン: 西村選手
ブラーゼン: 谷選手
フィッツ: 宇賀選手
集団が割れたときは自分は後方にいたので反応できなかったのだが、この強力なメンバーに1名しか乗せられていないのは不利なため、どこかで有力チームを連れて行かないようにブリッジする必要があると感じた。
とりあえず後ろの集団は、マトリックスが誰も前に乗せていないということでけん引してくれてペースが安定していたため、半周待って7周目の裏の登りで勢いよくいくことにした。
そうして7周目の裏の登りで目算通りアタック。ここに、
キナン: トマ選手
リオモ: 門田選手
チーム右京: 小石選手
エンシュア: 阿曽選手
ディレーブ: 高木選手
が反応して6人の追走ができた。
トマ選手、小石選手が入るとスプリントの展開になる確率がぐっと低くなるので、正直連れていきたくなかったが、ここは後手を踏んだチームの宿命として受け入れざるを得ない。
彼らもレースの最前線に復帰することを望んでいたので先頭を強力に牽引してくれ、おかげで8周目の裏の平坦区間に入るころには前に追いついた。
ここまでで3人を前に乗せているのがキナンとチーム右京、2人が愛三とリオモ、1人のなかで僕がマークしていたチームがブリッツェンとブリヂストン。
キナンの3選手はまだまだ脚を残していそうで最も有利な状況、次にクライマーとスプリントのできる選手がバランスよく入ったという意味でチーム右京と愛三が互角、リオモが未知数、ブリッツェンとブリヂストンはあからさまに不利。
といった感じで終盤の展開に突入していく。
終盤の展開: 3人を行かせるミスとその後の作戦の齟齬
8周目のラスト1kmを切ったあたりの平坦区間でトマ選手がアタック。
これに右京小石選手、リオモ石原選手が反応して3人を行かせてしまう形になる。中継を後から見た限り集団は緩んでいたのだが、緩みたくて緩んでいたわけではなく、もうきついのでこれで落ち着いてほしいというような心の叫びが出てしまっている状況。
それ以外の単騎のチーム、そして僕と伊藤さんも、ここで行かなければならなかったのは直感的にわかっていたと思う。
アマチュアレースにおいてはよくこういう状況になることがある。
状況的に自分が反応する、もしくは逃してしまったら自分がひかなくてはならない状況とわかっていても、心の声と身体の声が一致せず心の声に従ってしまう。
プロ選手は基本的にはこういう状況で自分の身体を犠牲にしてチームのために仕事ができるのだが、今日はレースが激しすぎて、プロ選手でも心の声が表に出てしまった。
作戦の齟齬
そうして3人を行かせてしまうことになったわけだが、この時点で僕はこんなことを考えていた。
アタックの時点でトマは相当余裕があるようだったし、ここから吸収したところで集団スプリントになる可能性は薄い。だったら自分が犠牲になって伊藤さんがひと踏みで追いつける距離まで詰めて、伊藤さんに頑張ってもらおう。
しかし監督から伊藤選手への指示は違っていたようで、「あくまで大前のスプリントで行くから前をキャッチしろ、大前は後ろで休め。」
ということだった。
しかし、状況が目まぐるしく変わる中で、無線を使えないレースでは、6kmに1回監督と2,3言交わすことしかできない。これを伝えられるまでの間に、すでに僕は9周目の裏の平坦区間をかなりの時間牽いて、脚を消耗してしまっていた。
そして僕と伊藤選手も、心拍数が究極に高い状況で、あまり積極的にコミュニケーションをとれる状況ではなかった。
後から話したところ伊藤選手もかなりきつかったようで、僕もきつかったのでつまりどちらで勝負しても無理だったとも考えられる。
4位を狙う状況なら僕で勝負しても良かったのだが、今日は勝ちにこだわりたかった。だからこそ自分が先頭を牽こうと思ったのだが、他単騎チームの協力も得られず、徒労に終わる形となった。
やはり監督-選手間、選手同士のコミュニケーションというのは大事だなと改めて思い知るレースとなった。
仕事をやり切ったはずが…あれ?
10周回目に入ったトヨタカローラの登りで、伊藤選手をはじめ他選手がアタックしていき、仕事していた自分はここでちぎれて終わり、ということになったかに思われた。
しかし、ペースで下りと平坦区間をこなしていると、あろうことかみるみるうちに集団が近づいてくる。
集団では自分しか仕事しておらず、ほかの単騎の選手は4位狙いに切り替えたようで、僕がひかなくなったら極端に集団のペースが落ちたのだ。
そうして意図せずして、10周目の裏の平坦区間でもといた集団に戻ることになったが、当然出し切って仕事を終えているので、伊藤さんのために何かできるわけはなく、そこから1周半、金魚のフン状態でゴールまでついていき、12位でゴールした。
伊藤選手は後続集団のスプリントに参加し、6位でゴールしてくれた。
良くなかった点
今回のような、集団が後ろでなく前にちぎれていくような激しいレースでは、「動きすぎ」ということはないのかもしれない。
しかし、コースの特性を理解しきっていなかったため、序盤は裏の平坦区間で無駄に動いたり、登りだけ踏んでみたりと無駄足を使った場面が多かった。
この周回コースの決定的なポイントは、裏の2つの登りを終えた後のゴールまでの1kmの平坦区間だ。
後からみればレースの決定的な動きはほぼここから生まれている。
34人に絞られた集団から門田選手がアタックしてできた9人の逃げも、そこから3人に絞りこんだトマ選手のアタックも、同じポイント。
それにレース中気づけなかったのが一番の失敗だった。
あとは、伊藤選手、監督とのコミュニケーション。全員が極限まで追い込まれている中で、どちらの方が脚を消耗していて、どちらでゴールを狙うべきかという点について冷静に的確な判断を選手間で下すことは、容易ではない。
しかし監督の指示を受け取れず、終盤には結果徒労となる集団牽引など、少し冷静さを欠いた動きをしてしまった。この点も要改善。
良かった点
昔からこのようなサバイバルな展開でレースに参加できたためしがなかった。このような展開では完走にぎりぎりかかるかかからないかの集団でゴール、というのが自分の中での相場だった。
そのため、出走前にも、今回もそうなるのではないかという一抹の不安はあった。
しかし、序盤の展開から、ついていくというよりはむしろ自分から絞り込んでいくレースを展開できた。勝負に絡むための最終便となった6人の追走も、自分のアタックによりできたもので、そこは素直に強くなったと思う。
次回に向けて
Jプロツアーの次戦は群馬サイクルスポーツセンターで行われる交流戦なのだが、うちは参加しないらしいので、次戦は8/29,30の広島森林公園でのJプロツアーとなる。
個人的には、個人ランキングの上位3人が非常に面白いことになっているので、得意な群馬でレッドジャージを着てみたい気持ちもあったが、仕方ない。
広島は本来であれば、全日本選手権が開催されるはずだった時期、場所。
どうせ何もないシーズンなら、さも何かあるようにピークを作ってみるのも悪くないと思う。
ということで広島は勝手に全日本選手権のつもりで準備します。まあ、集団のメンバーもほとんど全日本選手権だしね。
こうして国内の非UCIレースをこなすことで、チームのコミュニケーションや連携もどんどん良くなっている気がするので、UCIレースが再開する日が(来るのかは別として)今から楽しみである。